アメリカインディアン ホピ族の神話

第2章 第1世界の終焉

 第1世界 火の雨


 かくして、最初の人類は地の表に増え広がり、幸せに生きていた。彼らは肌の色も異なり、言葉も違っていたが、一つのように感じ、話さずとも互いに理解することができた。
鳥や獣もまた同じであった。誰もが華や種、果実、トウモロコシという乳を与える母なる大地の乳房を吸い、人も獣も一つのように感じていた。
 だが、創造主を敬えというソツクナングとクモ女の命令を忘れる者たちが、徐々に現われてきた。彼らは、ますますもって体の波動センターを地上的な目的のためだけに使うようになり、創造の計画を遂行するという初めの目的を忘れ去った。

 その頃、彼らの間にラバイホヤ【お喋り】が現われた。彼はモクニ【ツグミに似た烏】と呼ばれる鳥の形をとって現われ、喋れば喋るほど、人々は自分たちの違いを確信するようになった。人と動物の違い、また肌の色や言葉、創造主の計画に対する信仰の違いなど。

 動物が人間から離れ始めたのは、この頃である。動物たちの守護霊が、尾の真下にあたる後脚の部分に手を置いて、彼らを野生化させ人を恐れて逃げるようにさせたのだった。
この柔らかな脂肪質の部分は、鹿と玲羊の後脚の両側に今もみることができる。

 同じようにして、人間も互いに分裂し始めた。違う民族と言葉の者たちが分裂し、次に創造の計画を覚えている者とそうでない者とが分かれた。
 彼らの間に、カトヤという美青年が大きな頭をもつ蛇の姿をして現われた。彼はさらに人々を互いに引き離し、原初の知恵から遠ざけた。人々は互いを疑い、非難し合って、ついに暴力に訴えて戦い始めた。
 その間もモクニは喋り続け、カトヤはさらに人々を引き離し関係を崩し続けた。そこには休息も、平和もなかった。

 だが、どの民族、どの言語の人々の中にも、創造主の法則を守って生き続ける僅かな数の人たちがいた。彼らのもとにソツクナングはやってきた。大風の音とともにやってきた彼は、突然彼らの前に現われてこう告げた。
「私は、事態をずっと見守ってきた。それがあまりにひどいので、私は伯父のタイオワにこれを告げた。私たちは、この世界を滅ぼし、あなた方が初めからやり直せるよう新しい世界を創造することに決めた。あなた方は、私たちの選んだ者たちである」
 人々は、注意深くその指示に耳を傾けた。
 ソツクナングは言った。「あなた方はある場所に行く。コパビ【頭頂の波動中枢】があなた方を導くだろう。この内なる知恵は、あなた方にある光景を示す。それは、昼は特定の雲、夜は特定の星となって、あなた方を導く。何ものももたずに行け。雪が止まり、星が止まるときに、あなた方の旅は終わる」

 こうして、これら選ばれた人々は世界の各所で突然姿を消し、昼は雲、夜は星に導かれて旅をした。他の人々は、どこに行くのかときいては、彼らを嘲った。
「雲も星もみえないぞ」と彼らはいうのだった。これは、彼らが頭頂にあるコパピの内なる視界を失ってしまったからである。扉が閉ざされてしまっていたのだ。それでも、雲と星をみる人々を信じてついてゆく僅かな数の人々がいた。

 多くの昼と夜を経てのち、最初の人々は所定の場所に到着した。まもなく、他の人々がきて、尋ねた。「あなた方はここで何をしているのですか」これに対して、彼らは「ソツクナングにいわれてここに来たのです」と答えた。「私たちも、蒸気と星に導かれてここにきたのです」と人々は答えた。彼らは、違う民族と言葉であっても同じ心と理解をもっていることを知って、喜び合った。

 最後の一団が到着したとき、ソツクナングが現われた。「全員揃ったか。あなた方は、世界を破滅から救うために私が選んだ者たちだ。私についてきなさい」
 彼は「蟻人間」の住む大きな塚のところにまで人々を導くと、その屋根を踏みならして、蟻人間たちに入口を開けるよう命じた。入口が開くと、ソツクナングは人々に言った。
「この蟻のキバに入りなさい。私が世界を滅ぼすときにもあなた方は安全である。ここにいる間は、蟻人間たちから教えを受けよ。彼らは働き者である。冬のために夏の間食物を蓄える。暑いときには涼しく保ち、寒いときには曖かく保つ。彼らは、お互いに平和のうちに生きている。彼らは、創造の計画に従っているのだ」

 そこで、人々は地下に下り、蟻人間とともに生きた。彼らが皆安全でいる間に、タイオワはソツクナングに世界を滅ぼすよう命じた。ソツクナングは、世界を火によって滅ぼした。それは、火族がこの世界の指導者だったからである。彼は世界に火の雨を降らせた。すなわち、火山の口を開いたのだ。火は下からも上からも噴き出て、地も水も風も全て火の元素一色と化し、地の子宮の中で安全に生きている人々以外は何も残らなくなった。